会報誌「園芸世界」のご案内

「園芸世界」6月号


CONTENTS

  • 切手盆栽誌 羽賀 正雄 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
  • 特集:『珍卉図説』をめぐって(前) 平野 恵 ・ 4
  • 本の花園 柳沢 正臣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
  • 園芸史雑話(21) 八代田貫一郎 椎野 昌宏 ・・・ 8
  • 花野彷徨 にしひがし 田代 道彌 ・・・・・・・・・・ 10
  • 花・ひと・模様 高田 薫 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
  • 一歩先へのヒント 田淵 誠也 ・・・・・・・・・・・・ 14
  • ミャンマー花紀行 田中 伸幸 ・・・・・・・・・・・・ 16
  • 植物導入記 小森谷 慧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
  • ベストセレクション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40

■特集:『珍卉図説』をめぐって(前)/平野恵

 筆者の蔵書中に、『珍卉図説』という書物がある。もともとは明治大学教授(当時)の平野満が古書店で求めたものである。平野満は、「天保期の本草研究会「赭鞭会」―前史と成立事情および活動の実態―」(『駿台史学』98号、1996年)や「幕末の本草学者阿部喜任〈櫟斎〉の年譜」(『参考書誌研究』56号、2002年)では、国立国会図書館蔵『珍卉図説』を参照したが、本書の入手以前なので、本書についての言及はない。その後筆者により、さいたま市大宮盆栽美術館の「盆栽村爽秋展」(2011年)に出展し、盆栽村との関わりを示した。また昨年「植木屋の採薬―フィールドで植物採集・記録する植木屋たち―」(『日本生活文化史』71号、2017年)において、植木屋の採薬という視点で本書の一部を紹介した。今回は、以上の研究論文の内容も紹介しつつ、今まで言及されてこなかった国会図書館蔵本との関係、所蔵者の変遷などをとおして、本書の総合的な史料価値を明らかにしたい。


園芸史雑話(21)
八代田貫一郎/椎野昌宏

 貫一郎は明治34年(1901)香川県の小豆郡渕崎村(現土庄町)に生まれました。八代田家は果樹園や養鶏場を営む、果樹農家で、恵まれた家の長男として生まれました。
 彼の経営する八代田植物馴化園の馴化とは、「植物が異なる土地に移された場合、その気象条件に適応して変化していくこと」という意味で、世界中の植物が小豆島の気候、環境条件にどのように適応していくかをテーマとして研究調査しました。21世紀の現代において、私たちの周りには世界各地に自生する植物が集まり、とくに熱帯亜熱帯系のものが、市場にあふれ、国際化しています。貫一郎は早くからこの状況の到来を予測し、植物馴化の課題に取り組んだのでしょう。特に山野草について愛着が強く、『野草のたのしみ、続、続々』の3部作を出版し、読者に喜ばれました。彼の代表作といってもよく、筆者も手元において、参考にさせていただいています。
 八代田の場合、盆栽をはじめ著書などを通してむしろアメリカでまず有名となり、「世界のYashiroda」から「日本の八代田」へとその名が広がっていったという、特異な存在でした。現在の国際化時代の先駆け的人物として、再評価されるべき一人です。


■花野彷徨にしひがし(144)
乗鞍岳夏の花/田代道彌

 乗鞍岳は海抜3000mを超える高峯ではあるが、火山活動は休止中で旧火口はそれぞれ池になっている。そしてコニーデ型の山容が有利に作用して道路の開削が容易だから、そのため山頂に近く宇宙線研究所やコロナ観測所が建設され、それを追うようにして乗鞍スカイラインと乗鞍エコーラインの二条の山岳道路が開設されている。その結果たとえば海抜2700mの畳平でバスを降りれば、そこはすぐ足もとにコマクサ・ウサギギク・チングルマの咲く、北アルプスの稜線と同じ高山のお花畑なのである。
 乗鞍岳の花を想うと、畳平周辺では豊富な株数を誇るコマクサ、それからその下段の鶴ヶ池のミヤマクロユリなどがまず挙げられよう。この付近ではコマクサについで株数が多いのは白色の花をつけるトウヤクリンドウだが、これは秋の花だからこの季節には根生葉を見るばかりである。コマクサ・トウヤクリンドウとも砂礫地を好み、他の種類と混生しないことでも共通している。同様に乾燥気味の岩場にはイワギキョウが多い。矢沢・河野『日本アルプス登山案内』には、乗鞍から御岳にかけてはイワギキョウが多くチシマギキョウは稀なのに、北アルプス北部の白馬岳などではこの状況が逆転すると指摘している。それはまさに現在でもそうだから、これは日本海側から吹き込む塩分を含んだ風の、イオン濃度などにも関連するのであろうか。


■花ひと模様(77)
ふらっと、ぶらっと、異空間/高田薫

 やっと春の香りがするようになった頃、隣町まで買い物に行ったついでに、以前知人から聞いていた世田谷区の「旧小坂邸」にぶらっと寄ってみることにしました。
 外観を見ただけで、趣きを感じるお屋敷は、最高の素材と技術を使い、昭和12年に建てられました。玄関はもちろん、随所に趣向が凝らされていて、まさに異空間。そのころには珍しく、立派な洋間やサンルームもあります。書斎はイギリス郊外の家の雰囲気でした。衣裳部屋も大きく、内倉もあり、この家を建てた小坂氏の趣味の骨とう品が収められていたそうです。1つ1つの部屋のアイデアのすばらしさに驚き、その生活を想像しながら、回遊式庭園へ向かいます。
 斜面になっている地形をうまく生かした庭園を、住人は毎日散歩したでしょうか。仕事のことを忘れて、ゆっくりと季節を感じることのできる小道。コナラの木の下に、カタクリの花が咲いていました。相変わらず昆虫を呼び寄せるために胸を突き出し、花弁を反り返して模様を見せています。一生懸命咲くカタクリの花。当時散歩をしていた人たちも、魅了されたことでしょう。